このプロジェクトは、とあるホテルを「観光ホテル化」するために発足しました。ホテルの名前は「ESPACIO」、27 年前山口市内に建てられたラブホテルです。
一度でもご利用していただいた方なら分かってもらえるはずですが、ゆったりとした敷地に佇む堅固な建物、広い部屋には大きな窓と浴室、そしてバルコニー。
このスペックでなぜラブホテルであらねばならないのだろうと不思議におもった方は少なくないと思います。わたしもその1 人です。
そしてこのプロジェクトを実現させるためにはるばる宝塚から山口に移住してきたのが2023 年7 月です。来た時期はちょうど梅雨の最中で、山と川に挟まれた土地の高湿度に驚かされ、梅雨が明けると今度は虫や鳥の大合唱、川のせせらぎ、頭では理解していたつもりでも、実際これほど豊かな自然に囲まれると、思考そのものに大きな影響を及ばすことにも驚かされました。
このプロジェクトの目的は実にシンプルで、エスパシオを観光ホテルにすることです。そのために必要なことを重ね合わせていくと自然と山口という土地のことや日本の文化について、そして遠く離れた人のことを考えることへと繋がっていきました。
かつてはそれぞれの土地に根ざしていた文化は、今では自由に海を超えて混ざり合い、新しい社会を形成しています。それは一見すると文化が薄まったようにも見えますが、あらゆるものが混ざり合い複雑になることでより味わい深くなったと捉えることもできます。そのことの是非は人それぞれ意見があるけれど、きっと地球規模で人々が繋がり合うためには必要なことだったのでしょう。
人は今もなお旅する足を止めません。その意味の中心にはいったいどんな力が働いているのだろう、そのことについて思考することが、この時代に生まれた私たちの責任だと感じています。今思えば、私がこの街にふらりとやって来た理由はこの土地へのレスポンスであり、始まったばかりの旅であるのかもしれません。
最後に「OVEL」という新しい名をつかって自己紹介。
「 O 」O-Project っていうファッションブランドが好きです。サイズも素材もゆるいユニセックスな洋服です。よくパジャマですかって言われるんですけど、そのときは「はいそうです」と答えるようにしています。ファッションって似合う似合わないって話をよく聞くけど、ぼくは人それぞれ着たい服を来ていればそれが幸せだと思っている人です。
「 V 」V ではないけどピースサインかな。チェンソーマンに出てくるナユタのドヤ顔ピースが大好きです。もう50に手が届く歳になったのに少年ジャンプを読み続けている人です。ちょっとマニアックなことを言うと、漫画ってコマとコマの間に想像力を全投入できるところが好きです。余白がある表現形態ってほんとすごいですよね。
「 E 」Eric Clapton の「SIGNE」って曲を死ぬほど練習していた時期があります。たしか高校生だったと思う。あの集中力はどこに消えてしまったんだろう。ナイロン弦の優しい音とリズミカルなテンポがたまらなく好きでした。だれに聴かせるわけでもなくただ技術を習得したいというピュアな気持ちだけはこれから先も失いたくないですね。
「 L 」やっぱりLoveHotel かなぁ。20 年ほどラブホテルのデザインをしてきたんですけど、ラブホテル業界には「脱ラブホテル」というトレンドがあって、ラブホテルが愛を否定しているみたいで面白くないですか。 愛のかたちを画一化するんじゃなくて多様に受け止めればいいだけなのにね。OVEL はさまざまな愛が充満したホテルにしたいです。
それでは、このプロジェクトに興味を持ってくれたあなたと、いつかこの地で会えることを楽しみにしています。
Jiro Araki